田辺聖子さんの話で思い出しました。20年近く前のことですが、「田辺聖子長編全集」というのが刊行されて、その時もやはりしっかりと「隼別王子の叛乱」は購入して、そのなりゆきと勢いで田辺さんにファンレターを書いてしまったのでした。
その時はすでに初めて「隼別」に出会ってから数年たっていたので、ある程度落ち着いて考えられるようになっていたのですが、なにしろ相手は芥川賞受賞のプロの作家さん、文章のプロなわけで、ただの手紙といえどもその中身を綴るのにめちゃくちゃ苦労してしまいました。
でもきっと田辺さんも必ずしも同業者からの感想ばかり欲しがってらっしゃるわけではないわよね、一般読者からのファンレターだって喜んでくださるわよね、と、稚拙な文章に対する引け目よりも応援したい気持ちの方が大きかったんですね。
ワープロもない時代のこと、何度も書き直し、やっと書き上げた手紙を投函するのがまた勇気が必要なわけで、ポストの前でどきどきし、「気持ちが伝わりますように…」と合掌したあげくにようやく投函したのでした。
もちろん、お忙しい方なのですから、もとよりお返事を期待したわけではありません。ただ読んでいただければそれでよかったんですね。
で、その手紙の事も忘れかけたその年の年末。なんと、その田辺さんからの郵便物が届きました。びっくり。開けてみるとそれはオリジナルで作成されたと思われる、田辺さんの愛息(?)スヌーをモデルにしたカレンダーだったのでした。お手紙は入っていませんでしたが、やっぱり嬉しかったですよ。きちんとご住所も書かれていましたし。ああ、読んでくださったんだ、と感激にひたってしまいました。
それからのちも何人かの作家さん宛にファンレターをしたためたものでした。荻原規子さんは同世代ということもあって、やはり田辺さんの影響をかなり強く受けてらして、そのあたりのことからも共通の土壌のようなものを感じてしまいました。荻原さんにはお返事もいただいて、そののちに風野潮さんの手によるファン同人誌、という形に結実したりもするのですが。
まあ、ですから、たとえ相手が文章のプロであっても、心を込めて書いた文章というものはつたない内容でも伝わるんだなあ、ということですね(笑)身のほど知らずにもいままでに私が書いたファンレターはすべて作家さん宛のものだったりします。おかげで「文章を書く」ということに対して、かなり図太くなった気がしないでもないですが…(笑)
(ファンレターでも芸能人宛とかにはならないあたり、やっぱり私らしいなあ、と自分でも思います(笑))