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両親の介護も一段落 双極性2型障害と気長に共生中

静かな大地/池澤夏樹

お絵描きの途中ですが、集中力が切れました。気分転換というのもなんですが、また本のことなど。

昨夜読み終えたのがかなり感銘深かったこの本でした。

http://www.hokkaido-jin.jp/issue/books/086.html

670Pもあるとさすがに私でも一気読みというわけにはいかなくて、3,4日かかったかな?その長さも苦にならず、まったく飽きさせない内容でした。

池澤さんの母方の曽祖父にあたる方がモデルだそうで、だからフィクションとはいえ、かなり史実に忠実に描かれているのでは?と思われます。

明治の初めに北海道の開拓に渡った淡路のもと武士達、とりわけ最初は少年だった、三郎と志郎の兄弟を中心に語られていきます。そう、「語り」という形式も多いのですね。

三郎と志郎の兄弟は同年代のアイヌの少年と親しくなり、言葉を覚え、狩りの技術を習い、やがて友情で結ばれていきます。同時に最新の農法や酪農、馬の飼育方法などを学んできた三郎はアイヌの仲間たちと共に牧場を形にしていきます。もしも災害が起きれば、より深刻な上に見舞われるのはアイヌの方だ、と気付いて、彼らのために準備を整える決意をした三郎は、以降、アイヌの人々と共に生きる決意を固めます。

で、まあ牧場は上手くいき、名馬を産出するようになり、評判も上がりますが、そこはやはり嫉むものがいて、恨むものがいて。アイヌのおかしな魔術のせいで物事がうまく運ぶだの、もとよりアイヌの人々の存在を受け入れる気がない和人も少なからずいて。さらに金銭的な種にしようともくろむ輩もいたりします。

地域のリーダーとして忙しく働いてきた三郎も徐々に心の疲労を重ねていくようです。それでも得た妻と子供、志郎やアイヌの友人達に助けられて牧場は続いていくのですが…。

やがて落日の時がきます。子供と共にお産で命をなくした妻。彼は自死を選びます。(かなり抑鬱傾向があったように読み取れます)

鮮やかで哀しいけれど、私にはその哀しさが相当の透明感の中に浮かびます。あちこちに珠玉のような場面がちりばめられているからかもしれませんが、最後まで本当に真摯に誠実にアイヌの人々との友情を貫いた三郎さんと、同様に誠意を尽くして彼と共にあったアイヌの人々の暖かさゆえかもしれません。

物語の最後に、アイヌ神話風の挿話が納められています。短い文章ですが、ちょうどそのままに三郎さんの人生を語っていました。あとになるほどじんわり堪えてきますね (^_^;) ハードカバーで欲しいかもしれない…。

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