特別お題「青春の一冊」 with P+D MAGAZINE
はてなの方で「あなたにとっての『青春の一冊』」というお題があったので、それに便乗さえていただこうかなあ、と、懐かしい青春の愛読書についてのお話です。
私の「青春の一冊」は田辺聖子さんの「隼別王子の叛乱」ですね。
読んだのはちょうど二十歳の時です。高校時代に内臓を悪くして、まだ体調も不完全なまま、進路についても見えていない時代、まさしく療養中でした。暑い夏の1日、縁側で柱にもたれて読み始めたら最後、止まらなくなりました。
物語の舞台は古代日本、河内王朝の時代ですね。大鷦鷯大王(おおさざきのおおきみ)=仁徳天皇の時代です。大王の異母弟、隼別王子は兄の命で妻問いに行った相手の女鳥皇女と恋に落ちて、叛乱を起こします。まだ二十歳になるかならずかの若い男女の決意と熱情、それゆえの狭量。彼らは自滅するように破れます。その若い世代を描いたのが第一部。
第二部は十数年後、大王の正妃である磐之媛を中心に描かれています。葛城の古い豪族の出自である彼女は大王ともいまひとつ打ち解けきれない感じです。正妃である誇りが頑なにさせるので…。そういう時に大王は亡き女鳥によく似た少女を向かいいれ、彼女によって妃の座を追われることを悟った磐之媛は愛する息子の住ノ江王子を案じつつ、暝い眠りに落ちていきます。
第一部は宝塚で舞台化されたこともあり、劇団で上演されたこともあります。漫画化されたことも…。が、二部を含めた全体はそういう形にはなっていないと思います。
このもとの話は古事記や日本書紀のエピソードで描かれています。が、私はこれを歴史物だと思って読んだことは一度もありません。テーマはあくまでも「人間」そして「時間」ではないかと思います。
もともとこの作品は田辺さんが30代の頃に骨子となる短編を書かれたところから始まっています。しかしこの作品が一冊の本として完結するまでには実に20年の歳月を要したのでした。のちに田辺さんは若い世代の隼別や女鳥は30代で描けたけれども、大鷦鷯や磐之媛を書くためには自分がそれだけの歳月を経なければ書けなかった、と記しておられます。
そして私が一番好きなのもやはり磐之媛なんですよね。初めて読んだ二十歳の時から、強く共感を覚えたのは磐之媛でした。二部の彼女ですと、設定としては40代後半〜50代前半くらいかな?そのキャラクターに一番惹かれる私って… (^_^;)
この小説は複数の登場人物の一人称で書かれています。それだけ情念が濃く伝わってきます。ともすれば歴史物だと妙なフィルターをかけられかねない素材ですから、「人の想い」をメインに書かれたのはいい方法だと思います。
当時の私はあまりに何度も読み返したので、好きなシーンはほとんど暗記しているほどです。
そしてあとから知ったことですが、ちょうど私と同世代、同じ作品に多大な影響を受けた女性作家がおられました。今は亡き氷室冴子さん、そしてご活躍中の荻原規子さんです。お二人の古代を舞台にした作品を読んだ時にすぐにわかりました。確認もさせていただきましたし (^_^;) 「隼別王子の叛乱」がなければ、もしかしたら勾玉シリーズもなかったかもしれません。それだけの影響力があった作品でした。
私も古代を舞台にした漫画を描いて、ほそぼそと同人誌を作っていましたしね。
このあたりの経緯がすでに「時を超えている」のです。時を超え、世代を越えた物語そのもののように…。受け止めるに値する「青春の一冊」でしょう。